大学院1年のサリクです.あけましておめでとうございます.本年もよろしくお願いいたします.あっという間に3月ですね.山口研究室を代表して新年のあいさつとさせていただきます.
さて,昨年末に米国のラスベガスで開催されたCSCI 2023という国際会議に,ワタクシが第一著者として執筆した論文「Sustainability of Nature Parks by Changing Tourist Behavior Using Donations and Generative AI」が採択され,現地でプレゼンを行いました.この論文は,自然公園を訪れる観光客から寄付を受けて,AIにエンターテインメントを提供させ,自然公園とその周辺地域に継続的な経済効果をもたらすという内容です.山口研究室には「相互にメリットのある社会を創るチーム」があり,チームで鳥海国定公園を舞台に3年かけて実施してきた研究の集大成でして,その発表を任されました.英語での論文執筆,米国への渡航,ネイティブを前にしたプレゼンと初めてのことばかりでしたが,大学での学びがとても役に立ちました.
そこで本記事では,これから国際学会に挑戦してみようという方や,少しでも海外に興味がある方に向けて,ワタクシが大学で学んだ3つのコツをラスベガスでの思い出話を交えながら紹介します.
1.話を整理する
まず大事なのはタイトルです.最初のうちは山口先生の「タイトルには作用と効果を含めよ」の指導に「えっ?」となりますが,作用と効果を意識すると「どんな工夫によって,どんな嬉しさが得られるのか」をタイトルだけで伝えられるようになります.タイトルが良くないと論文は読まれません.
次に大事なのは概要と結論です.概要は研究の背景,課題,提案,結果,効果を簡潔に述べて,研究のモチベーションを示します.結論は新規性,有用性,実現性を具体的に述べて,論文の貢献を示します.概要と結論が良くないと論文は採録されません.
あとはこれらに沿って論文を書いていくのですが,ワタクシが論文の執筆で最も苦労したのは図を説明するキャプションを書くことでした.それを山口先生に打ち明けたところ「まず自分の頭の中にイメージを浮かべて,そのイメージを相手の頭の中へ移すように説明せよ」というアドバイスを貰い,何を伝えたい図なのかをまず考えて,後に要点を必要十分に説明するようにしました.英語に限らずコミュニケーションの真髄はこれに尽きるのだと思います.この説明の技を使って自力で書き上げた論文を投稿し,採択通知メール ”Your paper is accepted.” をもらったときは本当に嬉しかったです.
論文が書けたら,概要から結論へと聴衆を導くようにプレゼンを作ります.プレゼンも同じく,発表者がリードしながらイメージを聴衆の頭の中へ移していきますが,スライドを使ってイメージを視覚的に示せるので,実は論文よりも伝えやすいです.スライドの上部に伝えたいメッセージを短く書き,聴衆が一目で内容を理解できるようにイラスト,グラフ,アニメーションなどを使って視覚的に伝えるようにします.アニメーションの切り替えやスライドをめくったときなどに真っ白な画面を見せてしまうと,聴衆の頭の中を真っ白にしてしまうのでNGです.聴衆に語りかけるように話し,頷いてもらえるプレゼンができたらこっちのものです.プレゼンの極意については「オオカワの記事」や「ワタクシの記事」でも触れていますので,是非ご覧ください.
以上のようにして論文とプレゼンをしっかりと準備した結果,ワタクシの論文は採択率18%の(5人に1人しか通らない)レギュラーペーパーとして採択され,聴衆の方々は20分間のプレゼンを頷きながら聞いてくれました.
2.英語に慣れる
ところでみなさん,パソコンの言語設定は何にしていますか?パソコンの言語は簡単に設定できるので,ぜひ英語設定にしてみましょう.山口研究室では海外生まれの学生と一緒にゼミを行ってきた経緯があり,メンバー全員が英語設定にしています.初めはみなさん戸惑いますが,言語が異なってもボタンの位置やアプリの操作性は同じなので「xxをクリックするとxxが表示される」ことに変わりはありません.英語設定のパソコンに毎日触れているだけで,自然と英語に慣れていきます.
あと,英語での雑談がオススメです.ワタクシは英会話サークルで学部2年生から継続して英語に触れています.初心者でもできる英会話のコツは,言いたいことを大まかに表現する単語を使って伝えることです.たとえば,基本的なhaveだけでも”I’d like to have lunch.”と言えば「昼食を取りたい」と伝えられますし,”Do you have any room avalable?”と言えば「宿泊したい」と伝えられます.”Have a nice day!”の「ごきげんよう」は挨拶の常套句でして,いろいろなシチュエーションで使えます.世界の英語人口15億人のうち綺麗な英語を話すネイティブは約2割と言われており,残りの約8割はノンネイティブです.使う単語がよほどズレていなければ,お互いの表情やシチュエーションが助けてくれるので,コミュニケーションは成立します.知っている英単語を使って,恥ずかしがらずに雑談してみましょう.
ちなみに,今回ワタクシが参加した国際会議では,発表資料をUSBメモリに入れて持参することになっており,会場に設置してあったパソコンは英語設定のMacだったのですが,スムーズにパソコンを操作して普段通りにプレゼンできました.日頃から英語に触れていたお陰です.
3.計画を立てて遂行する
国際際会議へ挑戦しようと思ったきっかけは,山口先生から「ラスベガスで国際会議があるよ.ラスベガスは,何もない荒野の中に街を造り,世界中から人を呼び寄せることに成功した街だから,研究テーマにも適っているんじゃない?」と勧められたからです.
ワタクシが生まれ育った秋田県は全国で最も少子高齢化が進んでいます.年々人口が減少し,慣れ親しんだ商業施設が次々と閉店していく現実を目の当たりにして「地域の衰退に歯止めをかけるにはどうしたら良いか?」という問いを,ずっと考えてきました.
中学生のときに「居心地のよいクラスを作ろう」と指導してくれた担任の先生がいたのですが,クラスメイト全員が仲良くなり,とても楽しい時を過ごしました.その先生がしてくださったように秋田の子供たちを元気にすることで「地域の衰退に歯止めをかけよう」と考え,塾で中高生を教えたり,大学にある「駆け込み寺」という教室で下級生に教えたりしながら,高校の教員免許を取得しました.
その頃,山口先生と出会い,社会を効率良く駆動させるサイバーフィジカルシステムを知り「秋田で起こっている問題の解決になるかも」と,皆が居心地よく暮らせるスマートシティの研究に取り組もうと思ったのです.コア技術として用いる最先端のAIが注目されがちですが,真の目的は「人間を中心においた持続可能な社会をデザインすること」です.ワタクシはこの目的を達成するために,ラスベガスでの国際会議で発表する目標を立てました.ここまで読んでくださった賢明な読者のみなさんは既に気がついていると思いますが,実は計画については「1. 話を整理する」で述べた「しっかりと準備する」というコツが使えます.
ということで,ラスベガスに赴いて自らの学びを最大化する(初めての海外旅行を目一杯楽しむ)計画を立てることにしました.この計画には,出発前および現地で確実に行うことと,計画通りに進まない場合の対応も含めておきます.旅程を組むにあたり,どこから手をつけたら良いかわからない場合は,航空券,ホテルの順に抑え,これを軸に細かいスケジュールを考えると良いです.
航空券は直行便よりも乗継便の方が安い場合があります.ワタクシが調べたときは,アラスカを経由してラスベガスへと向かうチケットが最安値でしたが,乗り継ぎでの待ち時間が長すぎる点と,空港外へ出る場合,秋田以上の防寒着が必要になる点が気になりました.そこで,ホノルルのダニエル・K・イノウエ空港を経由する便を選択(暖かいしね!).深夜にラスベガスのハリー・リード国際空港へ到着する,ほぼ最安値のハワイアン航空での移動に決めました.
航空券を予約したら,米国への入国審査を通過するために The U.S. Electronic System for Travel Authorization(ESTA)で21ドルを支払って自分の情報を事前登録しておきます.ハワイアン航空やESTAのWebサイトは,機内に持ち込めるものリストや入国審査の手順などを含めて,全て英語で書かれていますが,インターネットで調べながら読めば難しいことはありません.日本で調べられることはできるだけ予習しましたが,米国でインターネットに繋がらないと困るので,ホノルルやラスベガスのWiFiスポットは入念にリストアップしておきました.
ホテルは,国際会議の会場となる「ルクソール ホテル & カジノ」に宿泊することにしました.ラスベガスでは宿泊すると別途リゾート税がかかるのですが,ルクソールは国際会議の参加者に特別料金を設定してくれていて,リゾート税込みで1泊あたり数千円で泊まることができました.ちなみにルクソール(Luxor)はピラミッドやスフィンクスなどの遺跡が数多く残っているエジプトにある都市の名称で,今回のホテルはその都市をモチーフに建造されています.四角錐の形状をしたピラミッド棟と,直方体の形状をしたタワー棟での宿泊が選べるのですが,ここは迷わずピラミッド棟を選びました(部屋の天井が斜めなのです).
計画しているときに迷ったのは空港からホテルまでの交通です.どうやらバスがあるようなのですが,いくらインターネットで調べても時刻表などの詳細情報が出てきません.仕方がないので,万が一深夜に空港へ到着して足止めされたら,タクシーに乗ることにしました.
計画を立てたら次は遂行です.「実行」ではなく「遂行」としているのは「やりとげる」という意味を込めています.ラスベガスへと出発する4日前,最後の発表練習で山口先生がくれたアドバイスは「生きて帰ってくること.寝れるときに寝て,食べれるときに食べるべし」でした(プレゼンや英語に関するアドバイスじゃないの〜?).しっかりと準備したとはいえ初めての海外です.「サリクいっきま〜す!」なんて,のんきなことを言っている余裕はありませんでした.とにかく計画通りにホノルル経由でラスベガスを目指します.
秋田空港から羽田を経由して日本を飛び立ち,緊張しまくりで約12時間後,ホノルルの上空から見たハワイの景色はとても美しくて,今も目に焼きついています.
ダニエル・K・イノウエ空港での入国審査を無事にクリアし,ラスベガス行きの飛行機の搭乗ゲートを目指しました.以前,国内学会に参加した際に山口先生から「先に乗り継ぎ搭乗ゲートまで行って,場所を確認してから休憩すれば良い」と教わっていたからです.空港のスタッフに聞きながら搭乗ゲートを確認したあと,乗り継ぎまで3時間ほど余裕があったので,途中で目をつけていたフードコードに戻りました.ハワイではポキボウルという魚介の刺身を小さく切って醤油ベースのタレで味をつけた丼が有名らしいのですが,円安の影響もあってスモールサイズでも2,500円くらいしたので,代わりに価格の割には異様に大きなハンバーガーと,試食で配っていたホノルルクッキーでお腹を満たしました(クッキーにかかっていたチョコレートがとても美味しくて,帰りにお土産で買いました).米国へ無事入国できてお腹も一杯になり,ホノルルからラスベガスまでの5時間半はぐっすりと寝てあっという間でした.
機内での着陸のアナウンスで目が覚め,ラスベガスに到着!ハリー・リード国際空港の中にはカジノがあり,沢山のスロットマシンが出迎えてくれました.心配していた空港からホテルへと移動するバスは24時間運行されていて,すぐにやってきました.つい日本を基準に考えてしまいますが,観光客を乗せた飛行機が絶えず発着するのですから,空港と市内を行き交う交通サービスも24時間運行させるのは当たり前ですよね.乗車したバスの車窓からは,ギラギラと光る建物やレプリカの女神像などが間近に見え,まるで街全体がアミューズメントパークのようです.深夜ということもあり,下車したバス停から宿泊先のルクソールを上手く見つけられるかなと心配していましたが,なんとルクソールのピラミッドの頂点からビームが出ていて(正直,意味がわかりません・・)迷うことはありませんでした.
長旅の末にルクソールに到着したのですが,安堵して集中力が切れてしまいました.受付に向かうと親切にホテルの料金やルールを説明してくれて「タワー棟の方が綺麗で~%$&?$(早口で聞きとれない英語)なのでそっちにしますね」と,何だかお部屋をアップグレードしてくれたのだけど・・・「いいえ,ワタクシは予約した通り,ピラミッド棟の斜めの部屋が良いです」と,とっさに答えられず,言われるがままにタワー棟に宿泊することになりました.タワー棟へ向かうエレベーターでは,レディーファーストをする米国紳士に見惚れているうちに自分が降りる階を間違えてしまいました.その後,なんとか部屋に辿りつきましたが,すぐにベッドで意識を失いました.遂行については「2. 英語に慣れる」で述べた「日頃から英語に触れる」というコツが使えたら良かったのですが,集中力が途切れると英語に反応できなくなってしまうので,まだ慣れが足りないなと思った次第です.
数時間後,部屋に差し込む朝日で目を覚ました後は,明日の本番までプレゼンの練習です.自分のプレゼンを録音しては聞き返し,余計な話や不適切な言葉を削って練度を上げていきました.
そして迎えた本番当日,受付で受け取った国際会議の冊子に自分の名前が刻まれているのを見て,ここまで頑張ってきて良かったなと実感しました.しっかりと準備をして臨み,日頃から英語に慣れていたお陰で,満足いくプレゼンができました.ですが,上には上がいるもので,ワタクシの次の発表者が示した実験結果のグラフや,開発したアプリケーションの図がわかりやすくて衝撃を受けました.大学の先生による発表でしたが,良いところは全部吸収したいので,しっかりとノウハウをメモしてきました.会場では研究の議論だけでなく,発表している様子の写真を撮ってもらえるようにお願いしたり,気軽な会話も楽しめました.
発表を無事に終えたので帰路につきます.やって来たルートを逆に辿るだけなのですが,偏西風の影響で往路よりも約2時間ほど長くかかります.加えてホノルルから羽田への便が予定よりも遅れてしまい,秋田へ向かう飛行機に間に合いませんでした.羽田周辺のホテルをインターネットで検索してみましたが全て満室・・・.幸い長時間のフライトの最中はずっと寝ていたので眠くありません.それよりも,日本食が恋しくなっていたので羽田で好物のざるそば天丼セットをいただきました.「寝れるときに寝て,食べれるときに食べておけ」は海外旅行の鉄則だと思います.そして翌朝の飛行機で秋田へ生還しました.えっ?翌朝の飛行機はどうやって手配したのかですって?実は羽田に遅れて到着したときに,搭乗ゲートまで走っても間に合わないと判断して,ANAのアプリで航空券の日時を変更しておいたのです.ANAのアプリは以前に国内学会へ参加したときに利用したことがあり,追加料金なしで航空券を変更できました.余裕をもって計画を立てておくことが望ましいのですが,今回のように計画通りに進まない場合もあるので,事前にインターネットやアプリを準備して慣れておくことをお勧めします.
以上,サリクの国際会議冒険記でした.荒野の中にもかかわらず世界中から観光客を集めるラスベガスには,地域の衰退に歯止めをかけるためのヒントが沢山あり,自分の頭の中に浮かべられるイメージがずっと大きくなったと感じます.広い視野で思い浮かべた大きなイメージを,説明の技を使ってわかりやすく伝えられるようになったので,帰国してからというもの,海外経験のある人たちとの議論を一層楽しく感じられるようになりました.世界を冒険してみると人生を豊かにできると思います.ワタクシは国際会議の目標を達成して一回り大きく成長できました.引き続き目的達成に向けて邁進したいと思います.今回のワタクシの冒険記が後の冒険者達のお役に立てば嬉しいです.Have a goog one! 🇺🇸
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