こんにちは,大学院修士1年のオオカワです.
私が第一著者として執筆した論文が,米国電気電子学会(IEEE: Institute of Electrical and Electronics Engineers)のセキュリティ分野の国際会議(QRS: IEEE International Conference on Software Quality, Reliability, and Security)に採択されました.同会議は20のワークショップを含む大きな会議で,10月22日〜26日にタイのチェンマイで開催され,私は24日のワークショップ(CFSE: IEEE International Workshop in Cyber Forensics, Security, and E-discovery)で発表しました.国内では情報処理学会で発表したことがあるのですが,海外で発表したのは初めてでしたので,これから海外で発表してみたいという学生の皆さんの役に立てばと思い,私の発表までの取り組みを報告させていただきます.
私は現在,自分を成長させてくれる助言者(メンター)と出会えるマッチングアルゴリズムの研究に取り組んでいます.メンターを推薦する際にSNSのユーザーの投稿を解析するのですが,ユーザーがフォロワーを増やそうとして話を盛って嘘を投稿したり,生成AIなど他者の力を借りて自分を大きく見せようとする問題があります.最近の生成AIは文章だけでなく画像も巧妙に生成できるので,このような偽(フェイク)の投稿を自動的に見破る技術が必要です.そこで私は,多種のメディアを含む投稿を見破る新しいAIを考案・制作しました.研究の途中は紆余曲折ありましたが,結論から導いた発表の題名は “Explainable Multimodal Fake Posts Detection Using Feature Extraction with Attention Mechanisms” です.
私が国際会議にチャレンジしたきっかけは,昨年,国際計算機学会(ACM: Association for Computing Machinery)の推薦システム分野の国際会議(RecSys: ACM Conference on Recommender Systems)を米国のシアトルで聴講し,Google,Meta,Spotify,Netflixといった企業の研究者による熱のこもった発表に胸を打たれたからです.私もこのような場所に立って発表し,世界中の人たちと共に議論したいと思いました.
チャレンジを決意してから発表までは3つのフェーズがあり,3ヶ月かかりました(細かい話はあとがきにまとめました).第1フェーズは査読原稿の投稿までで,実験と評価を繰り返しながら同時並行で論文を執筆して投稿します.第2フェーズは最終原稿の投稿までで,査読結果を踏まえて論文を修正して再投稿します.第3フェーズは発表までで,スライドを作成して発表練習をし,現地へ飛んで国際会議で発表します.国内と異なるのはやはり言語の違いで,日本人の感覚を英語で表現しても,海外の人の受け止め方との間にはズレが生じてしまいます.このズレを減らすには,要約する力と視覚的に表現する力が重要です.論文では,提案手法の考え方と効果を説明し,なぜそのような効果が得られるのかを図表を交えてわかりやすく説明します.スライドでは,伝えたいメッセージを目立つように配置し,アニメーションをふんだんに取り入れて,聴衆が眺めているだけで内容を把握できるようにします.
上記の3つのフェーズを経てCFSEで発表しました.実は,会場入りする直前まで自分の音声を録音して発音や言い回しを微修正し,倍速でのシャドーイングを何度も繰り返して練習していました.直前まで足掻いたおかげで,本番では堂々と発表でき,結果,聴衆の方々から多くの質問をいただけて,目標としていた熱のこもった議論ができました.質疑応答を想定したスライドを事前に用意しておいたことも功を奏しました.やはり,準備に勝るものはありません.
会場のLe Méridien Chiang Mai
CFSEでのプレゼンテーション
発表を終えて翌日,帰国の飛行機まで時間があったので,タイ名物のトゥクトゥク(三輪自動車のタクシー)に乗ってチェンマイを観光しました.チェンマイを見下ろすステープ山(ドイ・ステープ)の山頂にあるドイステープ寺院を訪れたり,京都を思わせるお洒落なカフェでスイーツをいただいたりと,楽しい体験をしました.チェンマイ料理でサイウアというスパイスとハーブをたっぷりと使ったソーセージを食べたのですが,タイのおふくろの味と言われるナムプリックという辛めのソースをつけて食べたら最高に美味しかったです.
標高1,073mにあるドイステープ寺院
お洒落なカフェでご褒美
海外に興味のある学生の皆さん,国際会議に是非チャレンジしてみてください.そうでない学生の皆さんも,大学生活で1度は海外へ行ってみることをお勧めします.海外に行くと日本とは違った文化や環境に触れることができ,自分の視野が広くなったり,今の悩みがちっぽけに感じたり,ものの見方や考え方が変わります.私自身,海外へ行った経験が今の自分を形成していると感じています.海外へはパスポートと航空券さえあれば行けますよ.
以上,オオカワからの国際会議の参加報告でした.私の大学院生活はまだ1年以上あるので,次の国際会議に向けて研究を続けます.近況は自分のホームページで随時発信していきますので,気軽にアクセスしてください.Be the best! ✈️
あとがき(発表までの3ヶ月間)
7/26 前期最後のゼミで先生からCFSEの紹介を受け,チャレンジを決意した.いきなり英語で書くのはハードルが高いと先生に相談したところ,学会が配布している英語専用の書式を改良して日本語も使えるようにする方法を教えてもらった.
8/21 なんとか自力で原稿案を書き終えた.しかし,先生から「提案手法の考え方と効果を説明し,なぜそのような効果が得られるのかを説明せよ」の他,無数の手厳しいコメントをもらい,一つずつ修正していくことにした.また,査読者へ反論する際の予行練習とのことで,論文をどのように修正したかを示す回答書の書き方を教えてもらった.
8/31 原稿投稿締切の前日.ほぼ毎日修正を繰り返して原稿案が第9版になった.これで完成かと思いきや,先生から5度目のタイトルの再検討を指示された.間に合うのだろうか・・.
9/1 先生とやりとりをしながら締切15分前の23時45分になんとか第13版を投稿した.これで一息つけるかと思いきや,採否通知を受け取ってからでは間に合わないからと,英語の発表スライドと学会参加の旅程を作成するよう指示された.
9/24 採否通知が届いた.査読者のコメントは概ね好意的で,採択決定!しかし,喜びも束の間,先生から最終版の投稿に向けて,論文に掲載している図表の著作権と引用を再確認し,謝辞を記載するよう指示された.また,最終版の論文をQRSの会議録に掲載してもらうために,著作権譲渡契約書を作成するよう指示された.
9/30 今回は余裕を持って締切の24時間前に原稿を投稿した.しかし,引用の細かいミスや,原稿と一緒に提出するソースの中にあるミスを先生に指摘された.こんなところまで見られるのか・・.
10/1 先生とやりとりをしながら締切26分前の23時34分に第15版を最終版として再投稿した.今回もギリギリになってしまったが,後半では先生より早くミスに気づけるようになり,自身の成長を実感した.
10/18 出発前の最後の発表練習日.練習時間は4時間半にもおよび,先生からの指摘事項でホワイトボードが埋め尽くされた.あとは自分でやるしかない・・.
10/19-23 練習,練習,練習・・.
10/24 発表当日.身振り手振りを交えながら,楽しく堂々と話せた.議論が弾んだ.
10/26 秋田に無事帰着.目標達成!
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